私のところに来られた患者さんにはいろいろな骨転移の方がいらっしゃいます。

いくつかのポイントについてショートコメントしていきます。

 骨転移の種類を分けてみましょう

脊椎転移 :脊椎の骨に転移するもの。 転移巣が大きくなると、脊椎骨を壊したり(骨折させたり)、骨から神経管や脊髄腔にはみ出して脊髄や脊髄神経を圧迫したりします。それによって痛みや麻痺が現れたりします。尿意や便意がわからない手足が動かないなどの症状が出たりします。 
 脊椎転移で骨折の多いのは一番たくさん過重のかかる腰椎です。(椎間板ヘルニアが下部腰椎に多いのも荷重がかかりやすいためです)。同程度の多発転移が脊椎にあった場合には、荷重椎体を戦略的に守っていくのです。荷重の次に考えるべきは、頸椎のような可動椎体です。

 長幹骨転移:手足などの長い骨に転移するもの。腫瘍芽大きくなると骨折を来します。骨折してしまうと髄内釘を手術して入れたりしなくてはいけません。やっかいですから、長幹骨への骨転移が見つかったときに照射をして制御しておくことをおすすめしています。小さいうちに制御する事はより少ない副作用ですむ事を意味しています。骨折予防の放射線をおすすめします。

 少し古いある報告では、放射線治療には骨折予防効果は無い。と結論づけていました。当時の放射線診断学の別の論文では、単純X線撮影で骨転移による骨融解がわかるときにはすでに骨の50%以上(もっと高かったか...)が失われている、というのがあり、CTで見える病変が単純社でもそこそこ見えているはずだと目をこらして単純写をにらんでいた(若かった頃の)私にはショックだった。
 私よりも年配の先生方やその先生から習った先生方の多くが、骨折予防の放射線を信じていないのも、私たち放射線治療医がデータを取ってきちんと言って差し上げてこなかったためだと思います。

                                                   
多発の骨転移 と 単発の骨転移
 いずれにせよ 一度に全部ピンポイント照射 トモセラピー

 それぞれの転移に本質的な違いはありません。たくさんの腫瘍細胞が骨に生着して、大きくなったのかどうかといううことの結果を見ています。 
 たくさんの腫瘍細胞が骨に生着しても大きく 成れないで緩徐に推移することがあります。
 
 多発転移の時に、普通の照射装置は1回に1箇所しかうてません。1箇所ずつ寝台(カウチ)を動かして一つ一つがガントリーの中心なるように位置合わせするのは、手間と時間がかかります。それで、一度に広い範囲を照射する半身照射のような方法も発達しました。
半身照射のようなまとめて広い領域全体を含めて照射します。一つ一つ位置決めする方法は標的がたくさんあると大変手間です。このように広い領域全体を当ててしまうのは、本来照射しなくて良い正常部分まで含めてしまうので、問題があります。その上に、広い領域全体を当てる方法では、腫瘍の制御に必要な高い線量を照射することができません。それでもいいから、姑息的な緩和的な照射を行う必要がある場合には仕方の無い方法です。早くたくさんの部位に照射しないといけないような患者さんには、必要悪だったのです。
 過去の様に書きましたが、一つ一つがガントリーの中心なるように位置合わせする方法も、広範囲照射の方法も、まだ多くの施設の現有機で行われている照射方法です。

 新しい照射の考え方は、単発・多発に関係なく、胴体を2つか3つぐらいにおおざっぱに考えて、肩甲帯+頸部、胸部、腰椎骨盤部をそれぞれ一つの計画ゾーンに見立てて、同じゾーンなら何個あっても全標的に、一度にピンポイントで高い線量を照射する方法です。
 たとえ両肩と鎖骨と胸骨と脊椎に多発転移していても同じゾーンなのでワンセットのトモセラピーで全部撃てるのです。私たちはそういった多標的ピンポイント照射を行っています。(これは、時間の短縮と、医療費の省略を提供しています。)あと、実は脳も同じ方法で治療しています。
 この考え方であれば、そこにある標的が10個であれ、1箇所への照射の感覚で治療できます。

■ ”たくさんあるから治療できない” の意味
 普通の照射装置は1回に1箇所しかうてません。1箇所ずつ寝台(カウチ)を動かして一つ一つがガントリーの中心なるように位置合わせするのは、手間と時間がかかるのでできない事をいいます。
多発の骨転移でも一度に全部ピンポイント照射するテクニックをトモセラピーで使えば治療は可能です。

多発骨転移を治療した時はそれだけ照射され組織の変化を起こす体積が増えます。体の負担という意味で、増えます。副作用(adverse effect)は、早期障害が、単発で腫瘍の体積が少ないときよりも、多発で腫瘍の総体積が大きいときの方が大きくなります。早期障害は、けだるさ、食欲不振、お酒に酔ったようなふらふら感(放射線宿酔)等です。多数のゾーンを一度にする場合もありますが、複数のゾーンを別々の日に照射することで、強い早期障害を回避する作戦で望むことが普通です。