Blog Stella Hokuto 放射線治療医 岸和史

Stella Hokuto by 岸 和史 ★ 癌の放射線治療に関すること。 ★ 癌との戦い方。自分を大切にした生き方を、癌と闘う時にもできるように。 ★ トモセラピー、小線源治療、粒子線治療、BNCT、温熱療法、および免疫のこと。 ★ 放射線治療時の危険臓器保護のためのテクニック。

2014年04月

社会医療法人北斗 北斗病院2013年10月号掲載 

社会医療法人北斗 北斗病院

☎(0155)48‐8000
帯広市稲田町基線7番地5
http://www.hokuto7.or.jp/
外科手術なしで周辺の正常組織を隔離する
新放射線治療でより合併症のリスクを回避

  北斗病院(鎌田一理事長)ではがんに対し、放射線をピンポイントで照射できる最新鋭の放射線治療器「トモセラピー」を従前から実施しているが、今年4月、和歌山県立医科大学の准教授だった岸和史医師を北斗病院の放射線治療科部長に招聘、周辺の正常な臓器を隔離して合併症のリスクを回避する新治療を開始した。


▲岸和史
放射線治療科部長
 この新治療は放射線を照射する前にニードル(針)を挿入してそこからゲル状の物質を注入して悪性腫瘍とその周辺臓器を隔離させ、腫瘍のみに放射線を照射する画期的な治療法。
 ところで高い線量の放射線治療をおこなうことは必ず周辺の臓器を破壊することになる。そのため従来の放射線治療は腫瘍に密接した他の組織や腫瘍を取り囲んでいる周辺臓器を隔離しないまま、放射線を照射することで、放射線障害による出血などの合併症を招くリスクがあった。それは避けるため、重粒子線治療をおこなう施設では開腹手術で悪性腫瘍と他の組織を隔離させて放射線を照射する術中照射をおこなわれている。しかし、それではかなりの侵襲(身体の負担)を伴い、また保険外なので経済的負担も大きい。

 スペーサーによる新治療は腫瘍がある臓器と他の臓器との隙間にスペーサー(ゲルやバルーン)を注入、隙間が広がったところで、腫瘍に放射線を当てる。例えば、前立腺がんの場合、前立腺と直腸との間にゲルが入ることで正常な直腸に放射線が当たることを回避できるのだ。ゲルなどを注入するためのニードルは太さが21ゲージ(0.8ミリ)。治療時間は複雑な場合や後述するバルーンの場合を除いて10分程度。

 しかし、この治療には的確な診断と解剖学的な知識や組織発生学的な専門知識が必要になる。診断には最新鋭のMRIやCT、PETを使うが、「臓器によって隙間の広がり方が異なるため、解剖学的な位置づけが必要です。また隙間に腫瘍細胞が浸潤している場合もあり、その場合にはより特定の場所(たとえば組織内にある層の中)にゲルを注入しなければならない」(岸部長)

 組織がページを重ねたような層構造になっている部位ならゲルが使え、消化管や粘膜、皮膚などあらゆる部位のがんに適用できるという。ただ、腫瘍が組織を強く圧迫、しかも癒着している場合には流動性のゲルでは隔離できず、その場合にはゲルを併用したバルーン(風船)による治療をおこなう。「バルーンは固形なのでゲルより効果的だが、慎重にやらないと、出血や麻痺、血管閉塞を招く可能性がある」と岸部長。


 現在、この新治療をおこなえるのは全国でも岸医師のみ。
 北斗病院ではピンポイントで放射線を照射できる放射線治療器「トモセラピー」に、この治療法を組み合わせることで、より安全で適切な治療をおこなう方針だ。
 鎌田理事長は「前立腺がんを中心としてこの新治療がスタートするが、全身の臓器にまで適用範囲を広げたい。放射線治療によるリスクを回避できる画期的な治療なので是非、推進していきたい」と期待する。




北海道のパワフルカンパニー(月刊クオリティー記事)から
http://www.qualitynet.co.jp/quality/kigyou/hokutobyoin.html


前立腺がんの治療法には、「手術療法」、「放射線治療」、「内分泌療法」、さらには特別な治療を実施せず、当面経過観察する「待機療法」があります。前立腺がんの治療を考えるうえで大切なポイントは発見時のPSA値、腫瘍の悪性度(グリーソンスコアー)、病期診断、比較的進行がゆっくりしているがんである ことから、ご本人の年齢と期待余命(これから先、どのくらい平均的に生きられることができるかという見通し、よく"10年以上"という長さが用いられます)、なによりもご自身の病気に対する考え方など によります。前立腺がんの正確な病期診断には限界があるため、グリーソンスコアーや治療前のPSA値なども参考にしながら、判断としての治療法選択が行われています。

開示:この記事は
情報を最新にして、私が考える適切な内容にしていますが、いくつかの下敷きや情報源があります(がん情報サービス:下記url、などです。情報元は提示しています。

http://ganjoho.jp/public/dia_tre/rehabilitation/reha03/sexual_dysfunction_male.html 
北斗病院の放射線治療関係のサイトの複製、引用を含みます。 

1)待機療法

 前立腺生検の結果、比較的おとなしいがんがごく少量のみ認められ、とくに治療を行わなくても余命に影響がないと判断される場合に行われる方法です。この方法は、具体的にいうと、グリーソンスコアー が6かそれ以下で、PSA20ng/ml以下、病期T1c-T2bまでの病態に対して、PSA値を定期的に測定して、その上昇率で、やっぱり治療する、まだしない、を決めていく方法です。
 PSA値が 倍になる時間(PSA倍加時間)が2年以上と評価される場合にはそのまま経過観察で良いのではと考える人もいます。 

2)手術療法

 基本的には前立腺、精嚢を摘出し尿道と膀胱を吻合する方法です。リンパ節の転移の有無を確認するためリンパ節郭清が一般的に施行されます。年齢が若く、がんが前立腺内にとどまっており(T2以下)、10年以上の期待余命が期待される場合には最も生存率を高く保障できる治療法と一般に認識されています。
 ★問題点は、T2と診断されても手術してみるとT3だったというケースが少なからずあることです。
 ★術前の画像診断をしっかり行っておくことが必要です。触診には限界があります。
  ★過去に直腸の手術をしている場合、
手術困難なことがあります。
 ★すでにバイアスピリンなど抗血栓薬を服用している場合も、手術困難なことがあります。


手術の方法には下腹部を切開して前立腺を摘出する場合(恥骨後式前立腺全摘除術)と腹腔鏡とよばれる内視鏡下に切除する方法、あるいは肛門の上を切開して 前立腺を摘出する方法(会陰式前立腺全摘除術)があります。最近導入された方法ではダビンチという遠隔操作ロボットハンドを使いこなす方法があります。
ダビンチの利点はそのロボットハンドが、人間の手の動きを超えた可動性と操作性をもっていることです。欠点はダビンチには神経がなく柔らかさや抵抗を感じることができないことです。経験のある、天才的な外科医Cooperbergは、あたかも触っているかのような感触を、イリュージョン(幻覚)的な、勘で、感じ取って手術ができるのだと言っていました(2014.2.東京での会談にて)。

手術に伴う副作用としては、肉体的な負担以外に、尿失禁と性機能障害が あります。尿失禁に関しては、この手術に慣れた施設ではそれほど問題にはなりません。この手術では性機能障害は精管が切断されるため術後、射精することが できません。また勃起を支配する神経が病態によっては前立腺と一緒に切除されるため、勃起障害が起こります。逆に病態によっては神経を温存することも可能 です。この神経温存手術はどの病態でも可能というわけでなく、逆に、腫瘍を残してしまうリスクになります。

米国の病院では手術件数、成績を公表しています。施設は、日本では国立がんセンターなどいくつかあります。

手術に慣れた施設では輸血を要することもまれで術後7日前後で退院することが可能となっています。


 

)放射線治療

放射線を使ってがん細胞の遺伝子を破壊し細胞分裂をできなくする方法です。前立腺がんに対する放射線治療はさまざまな方法が登場してきています。前立腺がんに対する放射線治療 には手術療法と同様に転移のない前立腺がんに対する根治を目的とした場合と、骨転移などによる痛みの緩和、あるいは骨折予防のために使用される場合があり ます。

A.  外照射法

転移のない前立腺がんに対し て、身体の外から患部である前立腺に放射線を照射します。前立腺がんに対する放射線治療では放射線の総量が多くなればなるほどその効果が高いことが知られ ています。現在では治療範囲をコンピュータで前立腺の形に合わせ、なるべく周囲の正常組織(直腸や膀胱)にあたる量を減らすことにより、従来の放射線治療 と比較して、より多くの放射線を照射できるようになっています。一般的に1日1回、週5回で7週間前後を要します**。この治療中の副作用としては、前立腺の すぐ後ろに直腸があるため、頻便や排便痛、出血、また膀胱への刺激により頻尿や排尿痛などが挙げられ、照射方法によっては放射線皮膚炎や下痢が生ずること があります***。しかし通常は外来通院で実施可能な程度であり、治療終了後、時間がたつと次第に落ち着いてきます。放射線治療は手術療法後に再発を来した場合 にも使用されます。放射線治療後の再発に対する治療を行っている施設はごく少数です****


北斗病院では、トモセラピーによる画像誘導下放射線治療(IGRT)および強度変調放射線治療(IMRT)による正確な放射線治療を行っています。くわしくはトモセラピーのページ(http://www.hokuto7.or.jp/patient/treatment/tomo.php)等をご覧ください。

**北斗病院では、低リスク群には2.2y x 33=70.2Gy, 中・高リスク群に対しては2.2Gy 34=74.8Gy, 超高リスク群には2.3 Gy x 34 = 79.6Gyの線量処方を行っています。詳しくは当サイトの医科向きのページをご覧ください。
 

***放射線直腸炎は重篤な障害をもたらし、その頻度は325%と報告されています。北斗病院ではこのような放射線直腸炎の可能性をほぼなくした、危険臓器移動法を提供しています。この方法はインターベンショナルラジオロジーの技術を使って外来で提供しています。詳しくは北斗病院サイト:

前立腺癌の放射線治療を希望される患者様へ
 

http://www.hokuto7.or.jp/patient/kamoku/housya/ptient-spacer.php
http://www.hokuto7.or.jp/patient/kamoku/housya/patient-spacer.php
をご覧ください。
 

****北斗病院では放射線治療後の再発に対する治療(再照射)も提供しています。


 


 

北斗病院放射線治療科部長の岸 和史です。ここに新しくブログを開設します。このブログは私の所属する北斗病院のホームページに載る前の、放射線治療に関する新しい医学情報、取り組み方、考え方を掲載します。北斗病院のホームページの下書きです。


このページのトップヘ